私はこれまでに3社で人事労務系の事務に携わってきました。それぞれの仕事の役割を体験談を踏まえて思い出して書いていきます。このタイトルは、人事のお仕事に興味がある人に向けて、具体的に仕事内容をイメージすることができたら役に立つかなと思ったのでまとめてみました。
人事のお仕事はいろいろあります
よく言われるのが、「人事」と「労務」の分け方です。「人事」は採用、異動、教育、面談、評価などを担当します。「労務」は給与計算、年末調整、各種保険、労働契約の管理、福利厚生などを分担します。「人事」「労務」以外では、就業規則などの各種規定を作成したり、労働組合と交渉したり、従業員からの問い合わせに対応する業務もあるかと思います。この記事では、「採用」に特化した内容です。「人事」「労務」のお仕事紹介は別の記事を参考にしてください。
採用
採用は、新卒採用と中途採用があります。新卒採用にしろ、中途採用にしろ、今はどの業界でも人手不足なので採用が難しい時代と言われています。要は、どんな業種どんな職種であっても結局は人出なんです。人手不足は既存のメンバーに無理を強いるしかありません。なので、自社にとってどのような人材を採用したら良いのか、その人材を確保するためにどうやって採用活動するのかを考えることが採用担当者の仕事であり、採用担当者は採用活動について日々知恵を絞っています。
私が採用担当者として仕事をしていた時、いろいろな会社の採用担当とお会いする機会がありましたが、採用担当者に共通して言えることがあります。それは、皆さんとても明るくて元気です。
例えば、県の職員や研究職など一見お堅そうなところでも採用担当者はとても元気で明るいです。明るすぎて、もうどちらかと言えばお茶目な部類です。
そして、皆さん、話し上手で聞き上手です。話し上手というのは求職者の志望度を高めるプレゼンが上手ということです。聞き上手というのは、うっかりこちらがプライベートなことまで言ってしまいそうになるくらい求職者をリラックスさせて会話を弾ませるということです。
採用担当の中でよく言われる格言があります。「採用担当者以上の人材は取れない」というものです。つまり、レベルが低い採用担当者では優秀な人材を集められません。逆を言えば、ハイパフォーマンスの採用担当者は、ハイパフォーマンスを発揮できる人を採用できるということです。そのため、採用担当者は「企業の顔」と言われています。
採用の仕事というとどうしてもキラキラした面が目立ってしまうようですが、実際はかなりハードな仕事だと個人的には思います。私が採用業務に携わっていた時は、新卒採用の通年のスケジュールと中途採用の単発のスケジュールが並行して進んでいました。採用の目標人数をどう獲得していくか戦略的に考える必要があり、限られたスケジュールの中で求職者にどんどんアプローチしていかなくてはなりません。説明会シーズンのピークは体力勝負になるので覚悟が必要です。
- 体力:立ちっぱなし、喋りっぱなし、動きっぱなしは当たり前です。
- 気力:採用担当者は常に求職者に見られています。疲れ顔なんてご法度です。
- 洞察力:採用担当者もまた常に求職者の熱意を見ています。本当に入社したいと思っているのか、それともとりあえず内定が欲しいという駒のひとつなのか。求職者の志望度を見ています。(採用担当者もまた求職者から選ばれる立場なのです。)
ここでひとつケーススタディを用意しました。お時間があればお付き合いください。あくまでも例題で採用の仕事をつかんでいただくためのものです。実際と異なる点があるものについてはご了承ください。
採用費として500万円予算があるとします。2ヶ月後までに10名入社させてください。あなたならどのように採用計画を立てますか?
ハローワークや低予算の広告に求人情報を掲載する。費用0〜10万円。1ヶ月で5人応募があります。
大手採用サイトに求人情報を掲載する。費用300万円。1ヶ月で100人応募があります。
大手採用サイトに求人情報を掲載したうえで、さらにサイト登録者にDMを送り閲覧数を獲得する。費用500万円。1ヶ月で300人応募があります。
(中途の場合)転職エージェント会社に求人を出して、求めるスキルが合致した求職者を紹介してもらう。費用は一人につき150万円。
いかがでしょうか。実は、このケーススタディの元ネタは私の経験からきています。
新卒採用を任されていた時、限られた予算をどのように使うかかなり頭を抱えながら悩ませました。就職活動は採用サイトが主流ですからサイトに予算を使うのも良い作戦だと思いますし、中途の採用であれば、転職サイトや転職エージェントが主流ですから、そういったものに予算をかけても結果的に目標人数と質の確保ができると思います。予算いくらに対して何人の応募があり、その中から何人が採用できるかということが肝になるということがお分かりいただけましたでしょうか。
私の場合は、新卒20名の採用が目標人数でそのために1,000件応募を獲得するプランを立てました。この1,000件の応募は当時の説明会のキャンセルや面接辞退、内定辞退を考慮した数です。
私は予算の半分で、採用サイトにシンプルな求人を掲載しました。採用サイトも課金制で課金すればするほど目立ちます。
私の作戦はこうです。採用サイトの掲載は最低限にして、興味を持ってくれた求職者の情報を集める目的で採用サイトのエントリーフォームを使い受け皿とする。
この作戦から、採用サイトに作った自社のページは最低限のプランにしました。採用サイトのエントリーフォームからエントリーしてもらえると連絡先がわかるので、あとは個別にメールやお電話で連絡を直接取ることができました。
残り半分の予算で、全国の大学、専門学校、高校を行脚しました。従業員の卒業校をまわり、会社を紹介させてくださいと訪問したり、学校内での合同会社説明会に参加したり、遠方で来られない方にはオンラインで説明会を実施しました。今でこそ、オンライン説明会は当たり前に行われていますが、私が担当していた頃はかなり画期的なサービスでした。
全国の学校訪問をしているスケジュールと並行して、北海道、東京、名古屋、大阪、福岡で自社の会社説明会も開催しました。毎日が出張でホテル暮らしが3か月ほど続くスケジュールだったのでかなり疲れました。
結果的に目標人数である20名は採用できましたが、予算の配分について反省点が残る結果となりました。
まず悪かったこと。採用サイトはある程度良いプランにしておかないとなかなか求職者の目に止まらないということがわかりました。有名な企業であれば知名度からどんどんエントリーを稼ぐことができると思いますが、知名度が低い会社の場合、採用サイトで効果的に目立っておかないと他の会社に埋れてしまい探し出してもらえないということがわかりました。ちなみに企業の知名度だけではなく、待遇や福利厚生などのアピールポイントも求職者はよく見てくださいます。
採用サイトは、低予算のシンプルでいいと判断しましたが、説明会以外で情報を発信し続けられるのは採用サイトだけ。個別にメールやお電話で連絡をとると言っても限りがあります。求職者のこの会社に入社したいと思う熱意を冷まさないように採用サイトをより魅力的に作り込んだり、フォローDMで接点を持ち続ける必要がありました。
一方で良かったこともあります。全国の大学、専門学校、高校に訪問して会社説明を実施したことで部分的に知名度を上げることができ、訪問した学校からの応募が多数ありました。私としても卒業生の活躍を在校生に知ってもらう良い機会だったのでとても意義のある仕事で充実していました。さらに、翌年も合同会社説明会に参加させていただくなど学校とのつながりやご縁も持たせていただくことができました。
もちろん、内定を出させていただいた際は、残りの予算を使って上司と学校へお礼のご挨拶に伺いました。我ながら良い仕事ができたと思います。
さて、ここまでのお話で採用という業務について私の経験を書かせていただきました。
ちなみに、まだまだ紹介し切れていない細かな業務が沢山あります。
例えば、会社説明会や選考を開催するには、会場手配、バインダーや筆記具などの資材の調達、面接官の選定と教育(選考までにどのような人材を獲得したいか教え込まなければなりません。)、採用サイトでの説明会や選考会の開催告知、当日のスケジュールに沿った来場案内の連絡、説明会のプレゼン資料の作成、選考試験の問題作成、面接の実施(会場の設営や来場者にリラックスして面接に臨んでいただけるようにサポートします。)、面接官の態度の注意(圧迫面接するなとか、面接官のくせに寝るなとか、聞いてはいけないハラ(スメント)系のタブーな質問はするなとか面接官をビシバシ教育します。)、採用合否判定の擦り合わせなど、もうひっきりなしにやることが迫ってきます。
これが、「求人を出すには」「経営計画をもとに要員計画を立てるには」「応募者管理」とかいろんなパターンでやることリストがビッシリあります。
こんなに忙しいのに、いつもキラキラしている採用担当さんがいたらめちゃくちゃ頑張っている人なので、上司の方、同僚の方はちゃんと優しくしてあげてください。
採用の仕事は人から見られる仕事ですから、ビジネスパーソンとしてかなり鍛えられました。なにしろ面接官の上司や役員に向かって、ああしろ、こうしろ、30分で飯食ってこい、タバコ休憩?そんなもんあるかという態度で面接スケジュールをぶん回していたので、あの頃は本当にランナーズハイで体力的にも精神的にも無敵だったと思います。
今は採用の仕事はまったく携わってないのですが、これからは採用の手段もさらに進化すると思うので、今までのように手書きの履歴書とか、複数回の面接とか、形だけの最終面接とか、過去の話になるんだろうなと、流れが変わる時代になることを密かに感じています。
結局書いてみると、採用の仕事に興味を持ってもらいたいのか、採用の仕事に不安を抱かせたいのか、なんともわからない記事になりましたけれども、スピード感あふれる仕事であることは間違いないです。